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- 日経レバが先物に与える影響 (10/15)
2015.10.15 Thursday
「2つの先物売買」で運用する複雑系商品
野村アセットマネジメントが14日、日経平均株価の2倍の値動きを目指すタイプなどの上場投資信託(ETF)3本の新規設定を16日から一時停止すると発表した。足元の相場を代表する人気商品に急ブレーキをかける決断は、市場でも話題を呼んでいる。先物市場の流動性を踏まえ、純資産総額を適正な範囲に維持するためという説明だが、値動きを増幅させる仕組みを解きほぐすと、設定停止が半ば必然的であったことがわかる。
野村アセットが新規設定を止めた1本は、日々の日経平均の値動きの2倍を目指す「NEXT FUNDS日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信」(1570)。いわゆる「日経レバ」だ。このほか日経平均の反対の動きをする「NEXT FUNDS 日経平均インバース・インデックス連動型上場投信」(日経インバ、1571)、日経インバの倍の動きを目指す「NEXTFUNDS日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信」(日経Dインバ、1357)。
特に日経レバは個人投資家の間でいま、最人気と言っても過言ではない。東証全体の日々の売買代金では主力企業のトヨタや三菱UFJなどを抑えて首位になることが常だ。
折しも、日経レバは相場上昇で自然と資産規模が膨らむことをにらみ、信託金限度額を8月末に1兆円、10月1日には2兆円へと大幅に増やしたばかり。その直後の新規設定の受付停止に、市場では驚きが広がった。
ターゲットとする指数に対して変動率が高くなるこうしたETFは、株価指数先物を使って運用する。追加設定や解約といった資金の流出入と、指数の動きに対応する2種類の先物売買が必要な仕組みだ。
例えば、日経レバに資金が流入したケースを考える。日経レバを買いたい投資家が増えて売買できる口数が足りなくなった場合、株式でいう新株発行にあたる追加設定が必要だ。日経レバを販売する各証券会社は野村アセットに追加設定を申し込む。その翌日に資産残高の増減分を反映させて、野村アセットは午後3時から3時15分の間に先物を買うことになる。仮に100億円の新規設定があれば、その倍にあたる200億円分の日経平均先物を買わなければならない。解約があれば、その逆で先物売りが必要になる。
もうひとつ、日々の値動きに対応するための先物売買が「デルタ調整」だ。野村アセットは日経平均の2倍の値動きを保つために、常に純資産の2倍にあたる先物買いポジションを持っていなければならない。仮に前日時点の資産が100億円で、先物の買いポジション200億円を持っていたとする。きょう日経平均が5%上昇したとすると、先物の買いポジションは計算上、210億円に膨らむ。純資産は先物で増えた10億円が上乗せされた110億円だ。しかし、これでは先物が純資産の2倍にはならない。
そこで発生するのが先物の買い増しだ。2倍の220億円にするために10億円分の先物を買い増す。追加設定と同じく、3時から3時15分の間に行われ、日経平均が下がれば逆の先物売りが発生する。
野村アセットが新規設定を停止したのは、こうした複雑な運用を続けるのが規模の拡大とともに困難になったからとの見方が多い。
「池の中の巨鯨」、連動維持でジレンマ
「先物市場に占める存在感が大きくなってきた」。野村証券の塩田誠ETFマーケティング・グループ長はこう話す。日経レバは2012年4月の設定から3年半がたち、純資産総額は14日時点で7336億円に達した。日経インバ、日経Dインバも合わせれば3つで8000億円に膨らむ。
日経レバを例にとると、日経平均株価が3%上昇した場合、指数の動きに連動するための「デルタ調整」だけで440億円分の先物買いが3時〜3時15分の短時間に発生する。相場への影響を少なくするために売買は分散していると思われるが、金額からすると影響はなお大きい。売買を分散させれば平均価格も散らばって目標価格に届きにくくなるジレンマにも陥る。
デルタ調整に加え、新規設定に伴う売買もある。こちらの方が市場に与える影響は大きいようだ。シンプレクス・アセット・マネジメントで日経レバとほぼ同じ商品設計のETFを運用する棟田憲治運用本部ディレクターは「日経平均が5〜10%動く日はそうはないが、新規設定や解約による資金流出入が5〜10%規模である日は少なくない」と指摘。確かに相場下落が激しかった8月下旬の日経レバの口数の変化を見てみると、連日10〜20%程度増加していた。足元の純資産総額(7336億円)をもとにすると、仮に10%の資金流入があれば約1467億円分の先物買いが発生する計算だ。
もちろん、追加設定とデルタ調整の具合によって先物売買の規模が小さくなる日もある。日経平均の下落で、逆張り志向の強い個人投資家が下値で買いを入れ、追加設定需要が発生する一方、デルタ調整による先物売りも発生するため、売買が相殺される可能性があるためだ。その逆もしかり。いずれにせよ「実際どれだけ先物売買が生まれるかは予測は難しい」(シンプレクス・アセットの棟田氏)のが難点といえる。
野村アセットは「きちんと運用方針に沿った売買をすることがトレーダーの腕の見せどころ」と説明する。最新の月次動向でも日経レバなどはほぼ運用方針に沿った変動率を維持している。それでも「資産規模が膨らむにつれて先物の価格形成への影響も拡大し、運用方針との連動を確保するのが難しくなっているのは間違いない」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジスト)との指摘は多い。
今回、追加設定は一時停止したものの、既存分の運用は続く。2倍の値動きを保つためには、デルタ調整の先物売買を継続しなければならない。商品設計が抱える宿命ともいえる。
野村アセットでは「現状で日経レバなどの新規設定の再開は未定」としている。日経レバが先物市場に与える影響を考慮すると、再開には先物の出来高の増加か、解約に伴う資産規模の減少が必要だろう。外資系証券からは、今回の対応について「リスク管理を厳格にしているあらわれではないか」と評価する声もあった。
14日の日経平均先物12月物の建玉残高は34万6143枚。15日の日中終値(1万8100円)からすると建玉の総額は6兆2000億円以上になる。日経レバの純資産総額(7366億円)なら先物の建玉は1兆4000億円以上と、期近物全体の約4分の1を占める計算になる。相場に与える影響も複雑だ。日経レバのように値動きが増幅されるETFは増えており、思わぬ経路で相場に波紋を広げる可能性は認識しておいた方がいい。
〔日経QUICKニュース(NQN) 中山桂一、野村優子〕
野村アセットマネジメントが14日、日経平均株価の2倍の値動きを目指すタイプなどの上場投資信託(ETF)3本の新規設定を16日から一時停止すると発表した。足元の相場を代表する人気商品に急ブレーキをかける決断は、市場でも話題を呼んでいる。先物市場の流動性を踏まえ、純資産総額を適正な範囲に維持するためという説明だが、値動きを増幅させる仕組みを解きほぐすと、設定停止が半ば必然的であったことがわかる。
野村アセットが新規設定を止めた1本は、日々の日経平均の値動きの2倍を目指す「NEXT FUNDS日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信」(1570)。いわゆる「日経レバ」だ。このほか日経平均の反対の動きをする「NEXT FUNDS 日経平均インバース・インデックス連動型上場投信」(日経インバ、1571)、日経インバの倍の動きを目指す「NEXTFUNDS日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信」(日経Dインバ、1357)。
特に日経レバは個人投資家の間でいま、最人気と言っても過言ではない。東証全体の日々の売買代金では主力企業のトヨタや三菱UFJなどを抑えて首位になることが常だ。
折しも、日経レバは相場上昇で自然と資産規模が膨らむことをにらみ、信託金限度額を8月末に1兆円、10月1日には2兆円へと大幅に増やしたばかり。その直後の新規設定の受付停止に、市場では驚きが広がった。
ターゲットとする指数に対して変動率が高くなるこうしたETFは、株価指数先物を使って運用する。追加設定や解約といった資金の流出入と、指数の動きに対応する2種類の先物売買が必要な仕組みだ。
例えば、日経レバに資金が流入したケースを考える。日経レバを買いたい投資家が増えて売買できる口数が足りなくなった場合、株式でいう新株発行にあたる追加設定が必要だ。日経レバを販売する各証券会社は野村アセットに追加設定を申し込む。その翌日に資産残高の増減分を反映させて、野村アセットは午後3時から3時15分の間に先物を買うことになる。仮に100億円の新規設定があれば、その倍にあたる200億円分の日経平均先物を買わなければならない。解約があれば、その逆で先物売りが必要になる。
もうひとつ、日々の値動きに対応するための先物売買が「デルタ調整」だ。野村アセットは日経平均の2倍の値動きを保つために、常に純資産の2倍にあたる先物買いポジションを持っていなければならない。仮に前日時点の資産が100億円で、先物の買いポジション200億円を持っていたとする。きょう日経平均が5%上昇したとすると、先物の買いポジションは計算上、210億円に膨らむ。純資産は先物で増えた10億円が上乗せされた110億円だ。しかし、これでは先物が純資産の2倍にはならない。
そこで発生するのが先物の買い増しだ。2倍の220億円にするために10億円分の先物を買い増す。追加設定と同じく、3時から3時15分の間に行われ、日経平均が下がれば逆の先物売りが発生する。
野村アセットが新規設定を停止したのは、こうした複雑な運用を続けるのが規模の拡大とともに困難になったからとの見方が多い。
「池の中の巨鯨」、連動維持でジレンマ
「先物市場に占める存在感が大きくなってきた」。野村証券の塩田誠ETFマーケティング・グループ長はこう話す。日経レバは2012年4月の設定から3年半がたち、純資産総額は14日時点で7336億円に達した。日経インバ、日経Dインバも合わせれば3つで8000億円に膨らむ。
日経レバを例にとると、日経平均株価が3%上昇した場合、指数の動きに連動するための「デルタ調整」だけで440億円分の先物買いが3時〜3時15分の短時間に発生する。相場への影響を少なくするために売買は分散していると思われるが、金額からすると影響はなお大きい。売買を分散させれば平均価格も散らばって目標価格に届きにくくなるジレンマにも陥る。
デルタ調整に加え、新規設定に伴う売買もある。こちらの方が市場に与える影響は大きいようだ。シンプレクス・アセット・マネジメントで日経レバとほぼ同じ商品設計のETFを運用する棟田憲治運用本部ディレクターは「日経平均が5〜10%動く日はそうはないが、新規設定や解約による資金流出入が5〜10%規模である日は少なくない」と指摘。確かに相場下落が激しかった8月下旬の日経レバの口数の変化を見てみると、連日10〜20%程度増加していた。足元の純資産総額(7336億円)をもとにすると、仮に10%の資金流入があれば約1467億円分の先物買いが発生する計算だ。
もちろん、追加設定とデルタ調整の具合によって先物売買の規模が小さくなる日もある。日経平均の下落で、逆張り志向の強い個人投資家が下値で買いを入れ、追加設定需要が発生する一方、デルタ調整による先物売りも発生するため、売買が相殺される可能性があるためだ。その逆もしかり。いずれにせよ「実際どれだけ先物売買が生まれるかは予測は難しい」(シンプレクス・アセットの棟田氏)のが難点といえる。
野村アセットは「きちんと運用方針に沿った売買をすることがトレーダーの腕の見せどころ」と説明する。最新の月次動向でも日経レバなどはほぼ運用方針に沿った変動率を維持している。それでも「資産規模が膨らむにつれて先物の価格形成への影響も拡大し、運用方針との連動を確保するのが難しくなっているのは間違いない」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジスト)との指摘は多い。
今回、追加設定は一時停止したものの、既存分の運用は続く。2倍の値動きを保つためには、デルタ調整の先物売買を継続しなければならない。商品設計が抱える宿命ともいえる。
野村アセットでは「現状で日経レバなどの新規設定の再開は未定」としている。日経レバが先物市場に与える影響を考慮すると、再開には先物の出来高の増加か、解約に伴う資産規模の減少が必要だろう。外資系証券からは、今回の対応について「リスク管理を厳格にしているあらわれではないか」と評価する声もあった。
14日の日経平均先物12月物の建玉残高は34万6143枚。15日の日中終値(1万8100円)からすると建玉の総額は6兆2000億円以上になる。日経レバの純資産総額(7366億円)なら先物の建玉は1兆4000億円以上と、期近物全体の約4分の1を占める計算になる。相場に与える影響も複雑だ。日経レバのように値動きが増幅されるETFは増えており、思わぬ経路で相場に波紋を広げる可能性は認識しておいた方がいい。
〔日経QUICKニュース(NQN) 中山桂一、野村優子〕